久しぶりに「よい小説」を読んだと思った。
技巧的な形容の列挙による小説ならではの表現力が抜きん出ている。
例えば、音のないところに音を発し、色のないところに色を付ける。そんな風雅を感じさせる秀逸な文章も、鼻に突くような嫌味を感じさせない。
主役の瀬名垣と真志喜との関係は、古書店を営む朋輩による好意だとか、同性愛などという言葉で片付けられるほど簡単ではない。言葉では表現しづらい、隠微な感じさえ漂わせた実に微妙なニュアンスでそれをよく描ききっている。
真志喜と父親との確執でも同じ事が言えるのだが、それはよく選別された台詞によって成されているといってもいい。実際、読んでみなければ分らない部分も多々あるので、一読をお勧めする。
そして、巻末には、作家の「あさのあつこさん」が一読者の視点で、本作に対する想いを綴っているので、作品を寄り深く味わうためにそちらも読んでおきたい。 |