花の撮影をライフワークとして30年余。花の写真紀行を綴るため、関東周辺の花のスポットを巡ってきた。
今回は、都心から60〜80q圏内にある秩父地方とその周辺に咲く草花、花木を紹介する。
中心となる秩父市は、山岳丘陵に囲まれて盆地を形成。市域の80%以上が森林で、埼玉県の森林の約40%を占めている。ほとんどが秩父多摩甲斐国立公園や武甲・西秩父など県立自然公園の区域に指定されている。
秩父は植物の宝庫である。秩父のシンボルである武甲山について、故倉田悟博士は「日本の植物界とって、かけがえのない貴重な存在である」といわれた。
植生の北限と南限との境にあるばかりでなく、有名な秩父古生層の石灰岩を母岩とする植生も加えているからだ。
林や里山を歩いて目にする植物の種類は素人目にもかなり多い。植物を撮影する写真家にとっても貴重な宝庫である。 |
小鹿野町両神は埼玉県の北西部、秩父山地のほぼ中央部にある。1732bの両神山が最西端に聳え、南部を小森川、北部を薄川がそれぞれ西から東へ縦断。約87%の面積が山林で占められている。
堂上には日本一の規模を誇るセツブンソウの自生地がある。和名は節分草。例年、2月上旬の節分の頃に花をつけるので、その名がある。
秩父地方は冬の寒さが厳しいので、2月下旬から3月上旬頃に開花する。自生地は落葉林のある山麓の緩やかな斜面で、落葉の中から姿を現すセツブンソウは楊枝位の細い茎の先端に白色の可憐で、清楚な花を咲かせる。
ペンタックス645N マクロレンズ120o シャッター1/15 F4 −0.3EV フィルムRDP100 |
小鹿野町堂上のアズマイチゲ群落
(キンポウゲ科イチリンソウ属)
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堂上のセツブンソウの花が峠を越える頃、舞台は変わりアズマイチゲが薄紫色を帯びた白色の花を咲かせる。
ペンタックス645N レンズ80−160o シャッター1/60 F10 −0.7EV フィルムRVP100 |
横瀬町芦ヶ久保のザゼンソウ(サトイモ科ザゼンソウ属)
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秩父市荒川日野の寺沢川沿い、横瀬町の横瀬川沿いの湿地帯にザゼンソウが自生している。ザゼンソウの主な分布は北海道と本州の日本海側であることから、この地域にザゼンソウが自生していることは貴重である。
ニコンFM2 マクロレンズ105o シャッター1/60 F8 +0.7EV フィルムRVP100 |
両神国民休養地内の四阿屋山中腹に黄金色のフクジュソウが群生している。その傍らに、濃いオレンジ色の秩父紅があった。昔、秩父の山麓で発見されたといわれる固有種の秩父紅は、秩父地方だけに自生するフクジュソウで幻の花と呼ばれるほど珍しい品種だ。2月中旬ごろ開花する。
ペンタックス645N マクロレンズ120o シャッター1/30 F5.6 −0.7 フィルムRVP100 |
山や丘陵に多く見かける落葉樹。春、葉に先だち2〜3個の紅紫色の花を咲かせる。葉が3枚輪生しているのでミツバツツジと呼ばれる。特に、長瀞町の岩根山のミツバツツジは有名だ。
ペンタックス645N レンズ80−160mm シャッター1/60 F22 −0.7EV フィルムRVP100 |
長瀞町岩根山のミツバツツジ樹林下のカタクリ群生
(ユリ科)
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小鹿野町、秩父市の白砂公園、長瀞町の岩根山などには昔からカタクリの自生地がある。カタクリは山麓の北斜面に群落をつくる。早春、一面がパステルピンクに染まる大群落に出会うこともある。
ソニーNEX−5 レンズ16mm+ULTRAWIDE×0.75 シャッター1/320 F7.1 −2 ISO400 |
秩父ミューズパークのミツマタ群生(ジンチョウゲ科)
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春、新葉に先だち黄色の花を開く。枝が3つに分かれることからミツマタという名がついた。樹皮は製紙原料となる。秩父ミューズパークは武甲山を借景にミツマタの群生が見られる。
ペンタックス645N レンズ80−160mm シャッター1/30 F22 −0.7 フィルムRVP100 |
岩松山清雲禅寺では1haほどの境内に約20本のシダレザクラが見られる。名木の中には樹齢600年と推定される埼玉県指定の天然記念物もある。隣接する長泉院の「よみがえりの一本桜」は樹姿が美しい。
ペンタックス645N レンズ35o F22 −0.7EV フィルムRVP100 |
早春、長瀞町宝登山(497b)頂上のロウバイ園は、約2000uの敷地内に満月や素心、和蝋梅など3種、500株、2000本のロウバイが素晴らしい景観を楽しませてくれる。
マミヤU67 レンズ65ミリ シャッター1/30 F22 −0.7EV フィルムRVP100 |
羊山公園の芝桜の丘は、秩父のシンボルといわれる武甲山(1304b)の麓、羊山丘陵の斜面にある。17600uの広大なキャンバスに、9種、40万株以上のシバザクラが「花のパッチワーク」を描く。
マミヤU67 レンズ65o シャッター1/15 F22 フィルムRVP10 |
見慣れた草花でも、時には変身した花姿を見て驚くことがある。越生町の麦原川沿いを歩いていた時、清流に洗われる岩の上に群生するひと塊のユキノシタに出会ったのもそのひとつである。
ペンタックス645N レンズ80−160 シャッター1/30 F16 −0.7EV フィルムRDP100 |
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今回の「秩父地方の花旅」は、2011年11月25日発行の「日本自然科学写真協会(SSP)会報59号」に掲載されたものである。 |
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