国の文化審議会が、妻沼聖天山歓喜院聖天堂を『国宝』に指定すよう文部科学大臣に答申とのニュースが流れました。驚きました。昨年は平成の大修理を終えての公開に参拝者は急増し、地域も賑わいました。今年は更に盛り上がることでしょう。
今回は、去る5月28日、29日の2日間『第67期本因坊戦第2局』が、聖天山歓喜院本坊で開催されました。そのきかっけとなった『布袋様と恵比寿様が囲碁を楽しむ場面』の彫刻と『琴棋書画』の彫刻を取り上げてみます。
琴棋書画とは、広辞苑に「手を使う四つの芸術、すなわち琴・囲碁・書道・絵画。雅人の風流韻事、士君子のたしなみとされ、画題として中国で好んで描かれ、日本でも行われた。」とあります。建築彫刻の題材としても見ることが出来ます。
聖天堂の彫刻の題材は、霊獣・鳥類・植物・魚類・人物・天女・雲・波などが彫られています。これは、日光東照宮の彫刻題材に沿っているといえます。
琴棋書画の彫刻は、日光東照宮にもありますが、聖天山の近くでは、群馬県太田市の冠稲荷神社本殿にあります。
布袋様と恵比寿様が囲碁を楽しむ場面
聖天堂奥殿の大羽目彫刻の西側3面の中にあります。左右は唐子(子供)の遊ぶ姿が彫られています。
碁盤面は塗装が剥落していたために当初の置き石は復元できず、江戸時代の残されていた棋譜を再現したものです。第4世本因坊道策と熊谷出身の熊谷本碩の対局時の棋譜です。
琴棋書画
正面の拝殿上部(向拝正面軒唐破風廻り)に琴棋書画の彫刻があります。
こちらの囲碁の彫刻も碁盤面の復元ができず、詰碁の場面を引用。
(歓喜院聖天堂保存修理工事報告書に詳しく記述されています。)
冠稲荷神社本殿胴羽目の彫刻
群馬県太田市の冠稲荷神社。この彫刻は明和4年(1767年)に彫られたもの。囲碁の図を拡大してみたのですが、碁盤面に置き石ありません。
建築彫刻には、当然下絵があります。日光東照宮の絵画部門(彫刻の下絵も含め)は、狩野探幽を中心とした狩野一門が担当。この時の下絵を基に彫り師たちも題材を増やしたことでしょう。一方、江戸時代中期以降、浮世絵師による絵の手本が「絵本」として出版されています。
特に、橘守国(たちばなもりくに)は、江戸時代中期の浮世絵師。数多くの絵本を描いています。『絵本写宝袋(えほんしゃほうぶくろ)』や『絵本直指宝(えほんねざしたから)』は、植物・唐子遊び・七福神・故事逸話など描かれ、これらが聖天堂の彫刻の下絵作りに大きく影響したようです。
この2つの絵本を、残念ながら手にとって閲覧をしていません。早稲田大学古典籍総合ライブラリーで一部見ることが出来ます。
絵本故事談表紙
インターネットサイト『雄峯閣ー書と装飾彫刻のみかたー』に大変興味のある記事を見つけました。聖天堂の布袋様と恵比寿様が囲碁を楽しむ場面の彫刻に酷似した絵が、江戸時代の絵本の『絵本故事談』(画:橘守国)に載っているとの内容です。
早速、埼玉県立図書館の蔵書検索で調べたところ、江戸怪異綺想文芸体系3和製類書集に収録されていました。
七福神の項
七福神の説明文で終わり、挿絵の説明はありませんでした。挿絵を拡大してみると、碁盤面に置き石は見えません。
確かに構図はそっくりです。聖天堂の絵師は、これらを参考にし、当時の棋譜を加えたのでしょうか。
建築彫刻の作品群は、浮世絵版画の絵師、彫師、刷師のような職人の分業体制と同様な共同作品だったといえます。だから、個々の職人名が残されていないのではないでしょうか。興味が尽きません。
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参考資料:①妻沼聖天山歓喜院聖天堂 彫刻と彩色の美 平凡社
撮影・構成 若林 純さん、本文監修 窪寺 茂さん
②重要文化財歓喜院聖天堂保存修理工事報告書 |