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2013年11月29日更新 →バックナンバー
今回の趣味

第26回 水月庵阿弥陀堂と柿沼山岳


 妻沼聖天山の東1キロ強、利根川の土手近くに「一本木」という地名の集落があります。地名の『一本木』は、妻沼地名考によると、目印になった榎があったことから付いた標目地名で、別名『阿弥陀河岸』と呼ばれていたと記述されています。
 今回は、この一本木にある水月庵阿弥陀堂(地図)と上州南画の先覚者『柿沼山岳』を取り上げてみました。
 このきっかけは、妻沼地域の郷土史家堀越尚ニ氏がまとめられた『水月庵阿弥陀堂沿革誌』を拝見したことです。その内容は、2百数十年前に地元の人の手により建てられ、以来地域で守られてきたお堂の由緒、縁起、祭日の様子がまとめられおり、その記述された中の一文に目が留まりました。
 「絵師柿沼山岳が福禄寿の条幅を千枚寄附し、これを頒布して建設資金を勧進したと思われる」、とありました。絵師柿沼山岳とはどんな絵師なのか、大いに興味がそそられました。


水月庵阿弥陀堂


妻沼聖天山界隈
遠景

 現在のお堂は、昭和58年に改修されて地域の集会所となり、その中の一室に須弥壇が設けられ、阿弥陀如来、観音菩薩の諸像をお祀りしています。

妻沼聖天山界隈
絵図面

 室内に地元の人が作られたのか、絵図面が壁に貼られていました。利根川の土手が築かれる前の状況が見て取れます。図面左手奥が妻沼聖天山の方向になり、利根川の流路に沿っての集落で、利根川の河岸場だったのでしょう。仙石みち、古海みちとあるのは、現在の群馬県大泉町との往来を示しています。現在の堤防を見ると、群馬県との往来があったとは信じられません。

妻沼聖天山界隈
境内

 建物改修に当たり、古いお堂の向拝部は残し、集会所入り口を兼ねています。
 敷地内には地蔵尊、如意輪観音など石造物が残されています。

妻沼聖天山界隈
祭礼

 由緒によると、諸国行脚の僧が、この地に留まり布教活動の最中に亡くなってしまったことから、この土地の有志が、その遺志を継いで、寛政元年(1789年)にお堂を建って、阿弥陀如来像を安置したことが始まりとあります。
 水月庵の名称は、一緒にお祀りされている観音菩薩が水月観音と思われることからのようです。
 祭礼は現在11月23日に行われています。昔は、参拝者が多く、境内は人々が押し合うほど賑わったことから『押阿弥陀』との異名が付けられたと述べられています。
 現在は12戸の方々で祭が執り行われていますが、関係者以外の参拝者の人は見かけません。

妻沼聖天山界隈
寄附された絵(1)

 絵師柿沼山岳が寄附したという絵を堀越尚二氏が、所蔵されていました。確かに阿弥陀堂再建のため南極星画を千枚寄附したと賛が書かれていました。

妻沼聖天山界隈
寄附された絵(2)


柿沼山岳


妻沼聖天山界隈
柿沼山岳遺墨集

 柿沼山岳は、上州木崎(現群馬県太田市)で活躍した画家です。
 群馬県太田市立新田図書館で、柿沼山岳の関係資料を閲覧してきました。
 地元の愛好家の皆さんが遺墨展を開催し、その顕彰を行っています。遺墨集から山岳のプロフィールを紹介します。
 「柿沼山岳は安永3年(1774年)に、武州加須(現加須市)に生まれたと伝えられいる。上州木崎宿に居住し私塾を開き宿場の子弟に学問を教え、漢方医を業としていた。医業や子弟の教育の傍ら書画作品を制作。木崎を中心に上州一円ばかりなく、江戸に出て子弟の指導にあたり、上州の南画の先覚者として評価されている。山水図、人物図を得意とし門弟も多く、熊谷地域には岩田霞岳(1828年~1890年)がいる。没年は不詳だが嘉永6年(1853年)に画かれた山水画が遺されている」

妻沼聖天山界隈
南極星画

 遺墨集の閲覧はできたのですが、実物を見ることができず、残念でした。遺墨集の中にも、堀越尚二氏所有の作品と同様の南極星画が3点掲載されていました。(南極星は、中国古代の天文説で人の寿命をつかさどるとされた老人星、福禄寿と同じ。)


参考
 ・妻沼地名考(改訂版)   平成23年5月31日刊
                  妻沼郷土史研究会発行
 ・山岳岱岳遺墨集      平成9年11月3日刊
                  山岳岱岳遺墨展開催準備会編集
 ・柿沼山岳遺墨考      平成10年4月15日刊
                  山岳岱岳遺墨展開催準備会編集
 ・柿沼山岳遺墨集資料集 平成13年9月4日刊
                  富岡三弥編集

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*このコーナーの姉妹編となるホームページを作りました。
  ご覧になってください。
 ・『妻沼聖天山とその界隈


取材記者:逸見稔


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