くまがやねっとは、埼玉県熊谷市近隣の情報をお届けする非営利のコミュニティサイトです。
HOME
>特集 熊谷人物伝
お気に入りに登録する
お友達に紹介する
ツイート
熊谷のことをもっと知りたい!!
熊谷人物伝
第141回 瀬藤貴史さん (せとうたかし)
2012年10月7日更新
<プロフィール>
制作活動と共に桜美林大学、造形デザイン専修の講師として活動。アート制作として、現代工芸展、都内ギャラリー主催展示などに出展。自身の制作における原点として、伝統の大切さ、文化の大切さを考え、古より継承されてきた技法にこだわりを持ち、その文化的な表現形成を研究を考える。
伝統という言葉は、各時代の『今』の積み重ねという考えの基
に、美術館等での展示企画などにも関わり、過去の展示として
は、文化学園大学服飾博物館『赤い服展』、パリ装飾美術館『感性価値創造展 皮革産業ブース』、経済産業省ロビー展示など、
今と伝統をつなぐコンセプトの基で展示を企画している。
海外における展示としては、モロッコ、ポルトガルがあり、日本の染織文化を伝える活動をおこなう。
また、映画、テレビなどへの美術協力なども手がける。映画『全然大丈夫』、テレビドラマ『山村美紗サスペンス 赤い霊柩車23 聡明な殺意』などを手掛ける。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
桜美林大学 総合文化学群 造形デザイン講師
文化学園大学 文化ファッション研究機構 研究員
社団法人 現代工芸美術家協会 会友
three bee art 代表
株式会社 三八染工場 所属
熊谷捺染組合 組合員
社団法人 日本皮革産業連合会 革育事業 実行委員長
瀬藤さんにお話を伺いました
『心鏡風景♯01』
インタビュアー
(以下N)
:
『染織』を始めるきっかけはどんなことですか?
瀬藤貴史さん
(以下瀬藤さん)
:
大学時代は、経営情報学専攻の学生でした。3年の頃に、アルバイト先で女子美術大学の学生と出会い、それまでは『表現するという世界』があるということすら知らない自分でしたが、『創造するという世界』の片鱗に触れることができました。
その後、就職活動をするにあたり、人生の道を考えた時、表現する仕事を具体的に探しました。
N :
表現する仕事の中で『染物』を選んだ理由は?
瀬藤さん :
多くの職業の方にお話を伺いましたが、デザインや広告代理店への就職は、学歴が異なる学生には壁が厚く、大学の勧めどおりシステムエンジニアとして就職しました。
しかし、夢を諦めきれず会社を退職。その時、何ならば自分が仕事としていけるのだろうかと考え、実家の『染物』に気がつきました。
N :
染物の経験はあったのですか?
瀬藤さん :
手伝いとしては、学生時代もしていましたが、あまりにも普通に存在していたので、実家の『染』を継ぐという概念は、当時殆どありませんでした。まさに、灯台下暗しですね。
N :
本格的に『染め』の勉強を始めたのは?
瀬藤さん :
型染め職人さんのところで古い型紙が痛んで、山に積まれているのを拝見して、その彫の美しさをどうにか次の時代に繋げることはできないのかと思い、東京芸術大学の扉を叩き、芸術としての染織、文化としての美術と向き合う事になりました。
N :
染織の魅力はどんなところですか?
瀬藤さん :
小紋、型染めのように型紙を使う表現でしたら、面と線、または点と面のバランスと表現。着物の型染めであれば、限りある型紙の表現から生まれる無限に続く連続性。絞り染めであれば、幾何学的な表現や、対照的な表現から生まれる奥深さ.。友禅のように描いて表現する場合は、その表現の自由度だと思います。
また、染織には「織り」も含まれ、その表現は糸として用いられる要素の質感であり、折り重ねられる時間と想いの表現だと考えます。
現代工芸展 入選作品『蜻蛉』
N :
瀬藤さんの現在の活動について教えてください。
瀬藤さん :
熊谷市で地域文化をアートとして発信しようという計画をしています。地域独自の文化を失ってしまうことは、地域の損失につながります。そこで、アートという表現の力を借り『今』という時代に提案していきたいと考えています。技術の継承が困難になりつつある中で、伝統的技法材料ネットワーク(文化学園大学 文化ファッション研究機構で計画中)、地域文化資源修復ネットワークの構築なども考えています。
また、金継(お茶碗の修復)、銀細工のクリーニング、漆工芸品の剥落止、絵画の修復、テンペラ画の制作なども手掛けています。そうした場所がないと、消えてしまうモノも多く、少し修復してあげれば50年、100年伝えることができます。『今』存在するものは、100年先の文化資源かもしれませんね。
もちろん、作品を制作するのも大切な仕事です。出来るだけ当時の技法で制作し、後の人に受け継いでもらえたらいいですね。それに、古の技法のほうが応用しやすいのですよ。
テンペラ画と絵画の修復は僕自身がしているというよりも、アトリエで請負っているという感じです。
伝統的技法
引染
鹿の刷毛に染料を含み引いて染める技法
。
下絵 青花
紫露草の汁を集め、和紙に吸収し
発酵したものを下絵に使用します。
下絵描き
青花の汁を水で溶き、
細い線を描いて下絵にします。
描き絵
藍を膠で固めたものを、
大豆の汁で溶き線を描きます。
金継
割れた白磁を漆でつないだ後に、
さらに漆を筆で流し込む。
金継
口の部分が欠けた杯。
漆で錆漆を作り欠けた部分を
埋めながら塗り固め、金粉を二重に乗せ
漆で固める作業を繰り返します。
RVG展示の様子
N :
これからの活動や目標は何ですか?
瀬藤さん :
伝統工芸または伝統的地域産業は、その技術、歴史を維持するのが困難になるのではないかと考えられます。
私が地域の伝統産業との交流を通して感じたことは、その技術をいかに社会が望む形に加工し、プレゼンテーションするということの必要性です。
大学という教育現場で学生と触れ合う立場から、各伝統工芸、伝統産業には歴史と共に培われた、すばらしい技術があり、学生は敏感に『今』を感じとる鋭い感覚とそれを作品に組み込む感性を持っています。しかし、作品を展示、発表するということでは、決して恵まれていないのも現状です。
N :
地域の皆様や今後について望むことは何ですか?
瀬藤さん :
美術を専攻する学生、作品を制作する方々に発表の機会を増やし、地域にある文化を楽しんでもらえれる空気を作れればと考えております。
芸術系の『学生』や『アート』と触れることは、地域の文化的な楽しみや作品を増やし、伝統的アートという新しい分野、新しい商品の発想を発見してもらう機会を作っていけるのではないでしょうか。
(ここでの作品とは、モノに固定されるのではなく、それぞれが面白と感じる表現をさします。)
『伝統的手法の技術者』として物造りに向き合い、高い技術に裏打ちされた商品は、それだけでも作品とし成り立ちます。しかし、全てが『今』という時間に合っているとも限りません。
それぞれの個性、感性を刺激し、伝統的な技術や価値観を受け継ぎ、作家的自由な発想をする新しい場が、『伝統工芸』や『地域文化』を日本文化として世界に発信するためには、必要だと考えています。
道具職人、材料職人、作品を作る人、観る人。人と人を繋げ、それぞれが重ねて来た時間を結びつけてあげたら、きっと、無形である文化の保存や継承も可能であると思うのです。だって、こんなに日本は魅力的なんですから(笑)
取材日:2012年9月24日/取材記者:なべさん
HOME
Pageの上へ
みんなのコミュニティサイト「くまがやねっと」
Copyright© くまがやねっと. All rights reserved.
運営会社:
大和屋株式会社